でも今日は息子の誕生日
何度も夜中に目が覚めた。
旦那さんが帰ってきたらごはんの準備をしなくちゃ、と思って、ずっとずっと、うっすら、月明りだけが真っ白で、真夜中の真っ暗な海の上を溺れないように浮いていた感じ。
今日は給料日だから旦那さんの好きなものを作ったし、会議だと言っていたからきっと疲れ切って帰ってくるはずだし。
帰ってきてお疲れさまと声をかけてご飯の準備をしなくちゃ。
そう思っていたから、息子がたまにうつ激しい寝返りのたびに起きて、スマホをチェックして時間を確認してラインをチェックして何かメッセージがきていないか、確認した。
夜、最近寝室の窓を10センチくらい開けているから、夜風がふうふう、頬を撫でて。
乾いた冷たい透明な水が頬っぺたを転がっているみたいで、とても気持ちが良いんだけれど、その夜風はすごく寂しさを増長させるものだった。
結局、旦那さんが帰ってきたのは夜中の3時とか4時で、ご飯を食べるはずもなく、くたびれたと言って、お酒の匂いをさせながらベッドの中にもぐりこんだ。
お酒の匂いをさせたままお風呂やシャワーにも浴びず、ベッドの上に寝そべるのは本当は好きじゃないんだけれど、そんなことも言えず、わたしはおかえりなさい、お疲れさまと呟いて旦那さんの寝息が聞こえるまでじっと窓の隙間から夜を見ていた。
いつの間にか眠ったみたいで、息子の寝相と泣き声で朝が来たとわかって、起きたのだけれども、結局、旦那さんが帰ってきてからも、わたしは溺れないように必死だったみたいだ。
一晩中、真夜中の海の真ん中を、溺れないようにゆらゆら揺れていたわけだから、朝起きてからもずっと疲れた感じが抜けなかった。
でも今日は、息子の誕生日なんだ。
二人目を妊娠していてナイーブになっていたとしても、つわりがで気持ち悪くて仕方なくても、それでもこんな気持ちで朝を迎えたくなかった。
幸せな一日のはじまりっていう気持ちで迎えたかった。
飲むよりも何よりも家に帰ってきたいと思ってもらえるようにするには、どうすればいいんだろう。缶ビールをちゃんとお家に常備しておけばいいのかな。
わたしが息子を寝かしつけたまま一緒に寝ないで、リビングでしっかり帰りを待っていればいいのかな。
部屋がもっときれいだったらいいのかな。
妊娠中なんです、少し良くなったとはいえ、つわりできついんです、息子も一歳になって目が離せないんです、一日中息子としか一緒にいなくて、息が詰まるんです、でも具合が悪いから外に出る気力もなかなか出てこないんです。
お酒を飲んできたから、手土産につわりのことも心配してくれてアイスやジュースを買ってきてくれるときもある。
それはそれでうれしい、けれど、アイスやジュースを買う時間があるなら、もう一本早いバスに乗って帰ってきて。
アイスやジュースを買うお金があるならば、自ら率先して、自分のお小遣いの内訳をしっかりわたしに伝えて、飲みがお小遣いの範囲内であることをわたしに示してわたしを安心させてほしい。
家を建てるお金を貯めるための口座、自動引き落としされるものを作ったよ、など、言わなくても動いてほしい。
わたしがお金の話をすると(と言っても平日はほとんど話す時間がないからラインで文章にしておくることになるけれど)あとから、このラインの文章を怒りに任せて打ったんだろうけどさ、と前置きで言われて、そんなことない、と驚くと一緒に悲しくなる。
そういうふうに、彼には思えたわけで、わたしが怒っていると思って彼も不快になったに違いなくて、そんなつもりは全くないのに、わたしはまた人に不快な思いをさせていると思うと、本当に、もう、一切お金の話をわたしからしたくない。
わたしはお金の話をしないから、どうか、勝手に動いてほしい。
そう伝えたらまた怒るのかな怒るのかもしれない。
お小遣い内でうまくやっているのだと、これは全部経費で出るのだと、ちゃんと証明してほしい。
飲みのときはほとんどだいたい毎回タクシーで帰ってくるけれど、それもきちんと経費なんだと安心させてほしい。
お小遣い内でやれていない=気が付いたらお金がなくなっていた、息子の児童手当も使ってしまったことに気が付かなかったっていう状況にもう二度となりたくない。
もっともっとお金にうるさいケチな人になってほしい。
不安ばかりでいっそこのまま切迫流産にでもなってしまいたい。
絶対安静になってこの不安の原因はあなたのお金の不透明さにあることを言えたらいいのに。
いくら多く稼いでもその分使ってしまうならば意味がないの。
目的のために貯蓄しようと動けない(余った分をためていけばいいという考え方)じゃ、ダメだとわかってほしい。
わたしより8つも上なのだから、お金の使い方のことで不安にさせないでほしい。
あと、朝が弱いのもわかっているけれど、自分で起こされなくても起きるようになってほしい。
でも今日は息子の誕生日なんだ。
わたしがすべて嫌に感じて疲れて泣いてしまうような日じゃ、ダメなんだ。
息子が生まれてきてくれた瞬間や、破水して病院に向かったときのはなし、そういう話はお花畑のお花の数くらい、たくさんある。
わたしと旦那さんはそれを共有できるはず。
一緒にいろいろな色とりどりのお花を見つめて、そうだ、こんなこともあって、あんなこともあって、と仲良く話ができるはずなのだ。
でもきっと今日も仕事が忙しくて帰ってくるのは早くて午前0時くらい。
泣きたくなったら、大急ぎでその分、息子に、お誕生日おめでとうと言おう。
息子が寝て、息子の中でお誕生日が終わったら、その時少しだけ、自分のうちに沈むことを許そう。