攻撃的な言葉
相手に嫌なことをされるのに耐えられないくせに相手を嫌な気持ちにさせるのにも耐えられない。
相手の人を傷つけたくないのに自分自身が不快な気持ちになったら途端に言葉の攻撃を発してしまう。
よく考えなくてもそんなの相手を傷つける言葉だとわかるのに、今の状態が嫌でたまらなくて一刻も早く不快な状況から脱したくて言葉が飛び出してしまう。
相手はわたしの言葉で嫌な気持ちになって言葉の攻撃をする。
受けた言葉の攻撃にまたわたしは更に不快な気持ちになって攻撃を重ねる。
積み重なってますます不快で不愉快な空気へと染めていく数々の攻撃的な言葉。
言葉の山山山。
それが崩れる時になってわたしはもうこの言葉に囲まれた状況に耐えきれずに吐きたくなる。
その頃には自分が不快な状況に陥ったのが嫌だったことよりも何よりも、あたり一面に転がっている、相手の人へと鋭く投げつけた自分の口から出た攻撃的な言葉の残姿にうろたえて泣き出している。
相手の人はとてもとても大事な人なのだ。
ずっと昔から大事な人だから遠慮もなにも無くなってしまったくらい、それほどいて当たり前で大切な人なのだ。
その人にわたしはなんてことをしてしまったのだろう。
役目を終え相手を傷つけ終わって無残に転がっている言葉の姿は散り積もって今にも風に吹かれて形をなくしてしまいそうな灰に似ている。
鋭さはもう無いけれど死んだ寂しい色をしていて、確かに証拠として残っている。
目を背け顔を覆いたくなる色と匂いと熱を持っている。
その灰の消し方がわからない。
灰の向こうにはわたしの大切な人がいる。
ついさっきわたしが傷つけた人。
わたしは、くるりと背を向けて灰を視界から消してその人を視界から消して自分がしてしまったことの、大きさを動悸を感じながら頭の中で再生する。
大事な人を不快な気持ちにさせてしまって思うように息ができないくらい。
どうしたら良いのかわからなくなる。
ただ思うのは。昔から変わらない。
わたしのことを誰も知らない場所へ行きたい。
誰も知らない場所ならわたしは死んでるみたいに生きていて許される気がする。
誰も知らない場所に行きたい。
この今の素敵な場所にいる資格はない。
そこは多分、夕焼けの公園のブランコ。思い浮かぶのはその風景で、わたしのことを誰も知らない場所の始まり場所、それは夕焼けの公園のブランコなのだ。
誰もいなくなってこれから紫になり暗くなる公園で、静かにブランコの軋む音だけが響いている場所。
そこで、わたしは、立ち漕ぎをして、疲れたら座ってこいで。
それも疲れたらブランコに座って、ぼんやりする。
そして十分に暗くなって公園のたった1つの街灯がポツリと明かりを灯したら、自分の影が完全に闇に溶ける方向へとわたしは歩き始めるんだ。