雪だるまからクリオネに
病院に行った。
相変わらず待ち時間長いの。でも主治医の人が好きな人だから、大丈夫。
わたしにとっては、どうでもいい人と好きな人しかこの世にいない。
主治医の人は、好きな人。
少し謝られるようなことくらい、なんてことない。
人柄は生きていく上でとても大切だと思う。
同じミスや手際の悪さでも、その人の人柄や愛敬、可愛げで、生きやすさが決まってくる。
ああどうか、お腹の中の子が、愛敬、可愛げがあふれていて、人を好きになることができる人になりますように。
でまぁ話を戻す。
内診です。
相変わらず、慣れません。
息を吐いて、楽にして、と、お馴染みのことを言われて、その通りにして、わたしはぎゅっと目を瞑る。
正直いたい。
冷たい異物が入ってくるんですもん。
ぐりぐり押されて、でも、先生の不穏な空気を感じなくて少しずつ安心してきて、そっと目を開ける。
病院の無機質の天井とカーテン。
ただの白。
さっとカーテンがめくられて、先生がモニターを見せてくれる。
おおお、とぐっと気分があがる。
モニターには、小さな子宮いっぱいに、クリオネのような、赤ちゃん。
ぽこんぽこんと、かすかに心臓も動いている。
頭と、胴体と、手足。それにこれが心臓。
説明を受けて笑みがこぼれて、泣きたくなる。
こないだまで雪だるまだったのに。
今日はもうクリオネに。
どんどん人になってくんだね。
こんだけ気持ち悪いんだから、こんなに可愛いものを見れて当然だ、ああでもなんて可愛いんだろう、私の中に、ものすごく小さくてものすごく可愛い、私とは別の命が息づいている。
気持ち悪さを遥かにこえた、ほっくりとした喜びで満たされる。
まだ、がんばれる。
がんばるよー。
外は晴れていて秋の心地よさで満ちていて、ふうわりとした優しい風が、わたしのロングスカートを揺らす。
豊かな気持ちになったから、そのまま電車に乗って帰った。
私が気持ち悪い分だけ、クリオネさんは大きく育ってくれている。
2014 10 09